最近、多くの投資家から「S&P500が急落していて不安です」という声をいただいています。確かに2025年2月20日以降、S&P500は約6%下落し、NVIDIA株も決算発表後に8%も下げるなど、米国株式市場に不穏な空気が漂っています。
この記事では、なぜS&P500が下落しているのか、その真相と私たち投資家がとるべき賢明な対応策について徹底解説します。相場の下落は不安を感じるものですが、実はこれを大きなチャンスに変えることもできるのです。
S&P500下落の規模を理解する
まず、今回の下落がどの程度のものなのか、冷静に見ていきましょう。S&P500の約6%の下落は、確かに大きな動きです。しかし、歴史的に見れば、このような5%程度の調整は年に3〜4回程度発生する「通常の出来事」でもあります。
より大きな10%の調整は約2年に1回、20%以上の本格的な暴落は約6年に1回の頻度で起きています。つまり、今回の下落は珍しいものではないと言えます。
とはいえ、なぜ今このタイミングで下落が起きているのでしょうか?
S&P500下落の3つの要因
1. 経済指標の予想外の弱さ
最近発表されたISM製造業購買担当者指数(PMI)が市場予想を下回りました。PMIとは企業の購買担当者の景況感を測る重要指標で、この数値が高いほど景気拡大が見込まれます。
注目すべきは、2023年10月以降、このPMIは予想を上回る好調な数値を示していましたが、2月のデータで突如として予想を下回ったことです。これにより「アメリカ経済は想定よりも弱いのではないか」という懸念が広がりました。
2. トランプ前大統領の関税政策への懸念
トランプ前大統領が中国、メキシコ、カナダなどの主要貿易相手国に対する関税導入を表明したことが市場に大きな影響を与えています。関税導入により以下のような悪影響が懸念されています。
- 輸入品価格の上昇によるインフレの再加熱
- インフレ再加熱による金融緩和政策(利下げ)の遅れ
- 貿易相手国からの報復関税による世界経済の停滞
これは2017年〜2020年のトランプ前政権時代にも見られた現象です。当時もトランプ大統領のTwitter(現X)での関税に関する発言が株価を大きく左右していました。今回も同様のパターンが再来しつつあるようです。
3. NVIDIA株の下落:AIバブル崩壊の兆候?
NVIDIAは2024年2月26日に決算を発表しましたが、その内容は驚くほど好調でした。
- 売上高:前年比72%増(393.31億ドル、アナリスト予想381.37億ドル)
- EPS(1株あたり利益):0.89ドル(アナリスト予想0.80ドル)
- 次期見通し:430億ドル(市場予想420億ドル)
- データセンター事業収益:前年比142%増
これほどの好決算にもかかわらず、NVIDIA株は発表後に約8%下落しました。この下落は、個別企業の業績というよりも、マクロ経済要因や市場全体のセンチメント悪化が影響したと考えられます。
一部には「DeepSeekショック」(高性能なGPUを使わなくてもAI開発が可能という発表)への懸念もありましたが、NVIDIAの好決算でその心配は払拭されたはずでした。それでも株価が下落したことで、市場の不安は一層高まっています。
日本人投資家を襲う「ダブルショック」
日本人投資家にとって、現在の市場は二重の苦痛をもたらしています
2024年1月の1ドル=158円から、現在は148円程度まで円高が進行しています。これにより、日本人投資家の米国株投資の円換算価値が大きく減少しています。
例えば、S&P500に連動する投資信託(eMAXIS米国株式S&P500など)は年初から約9%下落しています。これはS&P500自体の下落(6.4%)に円高の影響が加わったためです。
さらに、トランプ前大統領が「日本は通貨安誘導をしている」と批判し、関税導入の可能性に言及したことで、さらなる円高進行のリスクも高まっています。
実は全ての株が下落しているわけではない
米国株市場を詳しく見ると、実は全てのセクターが下落しているわけではありません。むしろ、明暗がはっきりと分かれています:
下落セクター
- IT(情報技術)セクター(年初来-2.8%)
- 代表銘柄:Apple、Microsoft、NVIDIA
上昇セクター
- ヘルスケア
- 生活必需品
- 素材
- 不動産
- 金融
バンガード社のセクターETFのパフォーマンスを見ると、この差は一目瞭然です:
- VOO(S&P500連動):-2%
- VHT(ヘルスケアセクター):+6.51%
- VDC(生活必需品セクター):+5%
つまり、米国株全体が悪いのではなく、特定のセクター(主にテクノロジー関連)が下落している状況なのです。
賢い投資家がとるべき5つの対応策
では、このような相場環境で私たち投資家はどのように対応すべきでしょうか?以下に5つの実践的な戦略をご紹介します。
1. 長期的視点を持つ
S&P500は過去何度も調整を経験していますが、長期的には右肩上がりで成長してきました。短期的な下落に一喜一憂せず、長期的な視点で投資を続けることが重要です。
特に2024年から投資を始めた方は、これまで順調に資産が増えてきたため、初めての下落に不安を感じるかもしれません。しかし、これは長期投資にはよくあることだと理解しましょう。
2. 月次で資産を確認する習慣をつける
日々の下落を心配しすぎるあまり、積立をやめてしまう、狼狽売りをしてしまうことを避けるにはメンタルを平静に保つことが重要です。例えば、毎日の株価変動に振り回されないよう、月に1回程度の資産確認がメンタル面でも効果的です。
特に給与所得者の場合、毎月の積立投資の効果で資産は長期的に増加傾向にあるため、短期的な変動に過度に反応する必要はありません。
3. 積立投資を継続する
下落局面はむしろドルコスト平均法の効果が発揮される好機です。株価が下がっている時こそ、同じ金額でより多くの株式を購入できるチャンスです。
特に投資初心者は「相場を読む」ことよりも、淡々と積立投資を続けることに集中しましょう。時間の味方につけることが、長期的な資産形成の鍵となります。
4. セクター分散を検討する
今回の下落で明らかになったように、セクターによってパフォーマンスは大きく異なります。ヘルスケアや生活必需品など、下落の影響が少ないセクターへの投資も検討価値があります。
例えば、バンガード社のVHTやVDCなどのセクターETFを活用すると、効率的にセクター分散ができます。
5. 配当株投資(不労所得)の検討
配当金は、暴落局面でも精神的安定をもたらします。株価が下落しても配当金が入ってくることで安心感が得られるため、高配当株やSCHDなどの配当重視ETFへの投資も検討する価値があります。
特に下落相場では、配当利回りが相対的に高くなるため、配当株投資を始めるには絶好のタイミングとも言えるでしょう。
まとめ:下落相場は投資チャンスの始まり
S&P500の下落は確かに不安を感じさせますが、長期投資家にとってはむしろ投資機会と捉えることができます。特に高配当株や成長性のあるセクターへの投資は、下落相場こそ割安な価格で購入できるチャンスです。
歴史的に見ても、株式市場は長期的には上昇傾向にあり、短期的な下落はその過程での調整と捉えることができます。不安定な相場においても、長期的な視点と分散投資の原則を守ることで、将来の資産形成に向けた着実な一歩を踏み出すことができるでしょう。
トランプ前大統領の発言や経済指標に一喜一憂するのではなく、このような下落相場をむしろ「賢い投資家になるための招待状」と捉え、冷静に対応していきましょう。今こそ、真の投資家としての第一歩を踏み出す時なのかもしれません。
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